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降り注ぐ光-1

 我輩は困惑していた。否、困惑していたというよりは、困り果て憔悴し弱りきっていた。
 背後には我輩たちを食らわんと巨大な樹人が迫り、目の前ではおかしな格好をしたヒュウラン族の女とララフェル族の男が宙に浮いている。
 それを言うならば我輩自身までもが宙に固定され身動きならぬ。
 こうなってしまっては如何しようも無い。このまま樹人に捕らえられその大口に呑まれて短い一生を終えることとなる。

 我輩がなにゆえに斯かる絶望的な状況に陥っているのか。
 その総ての責は友と呼ぶのも怖ぞましい我が悪友、ヴェルナア・シュレエディンガアに帰する。
 この赤ら顔の大男は山岳に暮らすルガディンの一部族、炎の衛士とも呼ばれるロオエンガルデに属する冒険者である。ロオエンガルデは同じルガディン族でも粗野な船乗りや海賊の多いゼエヴォルフとは違い、無骨なりと雖も実直な人柄の民として知られる。然るにこのヴェルナアたるや軽率にして無分別、軽佻浮薄にして無責任、事ありと見るや他人を押し退けてでもその太い首を無理矢理に騒動に突っ込みたがり、その癖に後の始末は他の者に任せて己れは何時の間にやら安全な立場に避難を済ませているという実にもって困った性質なのである。そのたびに巻き込まれ逃げ損ね、結果同様に迷惑をかけられた周囲の者の非難を何故か肩代わりさせられる羽目となる我輩の身にもなって欲しい。
 この男さえいなければ我輩は今頃は宿でのんびりと食事でもしていた筈なのである。
 我輩とこの男とを出会わせた運命が返す返すも恨めしい。双月神メネフィナよ、慈愛の教えは大いに誤りであった。

 数日前のことである。
 我輩とヴェルナアはティノルカ大森林南部の森閑道(トランキルパス)沿いにある宿場町にいた。木材や鉱物の輸送路“木こりの道”(ランバーライン)へと続くこの道は森の都グリダニアと砂漠の大都市ウルダハを繋ぐ街道でもあり、その宿場町は黒衣森とも呼ばれる地にあっては珍しく多くの者が行き交う賑やかな場所である。
 我輩たちはゴオルドバザアからの旅商を護衛してグリダニアまで送る途上であり、そこで一泊することとなったのだ。日も落ちかける頃合、商人が商会所へ鳥車を預けに出る間に我輩とヴェルナアは宿を取りに行った。
 我輩たちがこの町での常宿にしている笹枝屋は一階が飯屋を兼ねており、付近の川で釣れる旨い魚を食わせてくれる。その日の献立は脂の乗ったニジマスを塩と香辛料で焼いたものと平焼きパンに塩漬けキャベツを添えたものだった。前日までは山羊乳でふやかした固焼きパンだの麦粥だのばかりだったので、久しぶりのまともな食事にありつくと口を動かすのはただ食べる為のみで二人とも只管に無言という有様である。いや、もしかするとヴェルナアは何やら言っていたのかも知れぬが我輩の耳には全く入る余地が無かった。
 食事を終えエールの注がれた杯を手に人心地つくとヴェルナアが呆れ顔でこちらを見ている。
「お前は飯を食ってる時は本当に周りが目に入らねえな」
 そんなことはない、と反論しかけたところでヴェルナアが掌をこちらに向けて制した。
「さっきまでおっさんがここに来て俺と話してたの、気付いてなかっただろ?」
 おっさんとはここまで護衛してきた商人のことか。そういえばそろそろ宿に来てもよい頃だろうに姿が見えぬ。
「だからさっきまでここに居たって言ってんだろうが」
 ヴェルナアが言うには、我輩たちの雇い主は青い顔をして現れると依頼の中途取り消しを告げたそうである。運んでいた荷は銀の鋳塊であったようなので、察するにそれが贋と判明したか、或いはグリダニアでの銀の価格が暴落してこのまま運んでも割に合わぬと判明したかといったところなのだろう。
 気の毒な話ではあるが、こちらとしても同情ばかりしてはおられぬ。交渉の結果、報酬の後金は約束の四分の一だけ取ることが出来たそうだがそれだけでは懐がちと心許ない。
 新たな仕事を探さねばならぬが、このような中途の宿場町で護衛を加えようとする者は多くは無い。害獣退治といった仕事も無いではないが、そのような仕事は都市国家が定期的に発行する為、余程に被害が酷くなければこのような町で直接依頼を受けることはまずあるまい。
 サテどうしたものかと悩んだが、くよくよと考えても仕方ないので今日は寝ることにした。ヴェルナアが「お前は本当に気楽だな」とかなんとか言っていた気もするが、明日は明日の風が吹こうというものだ。

 目覚めると窓の隙間からはすでに日の光が差し込んでいた。窓板を押し開けると朝日は木々に遮られてまだ見えぬものの空はすっかり明るくなっている。
 我輩は欠伸を一つすると両手で頬を叩いて起き出すことにした。
 汲み置きしてある水桶で顔を洗うと寝台の脇に置いた荷を検める。この宿では各々の部屋の扉に錠が取り付けてあるが、安上がりな代物なので錠前師上がりの夜盗を防ぐには力が及ばぬ。もっとも、そのような技を持つ者が宿屋荒らしのようなせこい悪事を働く事は滅多に無いのであくまでも念の為である。現にこの日も荷は無事であった。
 日中は盗みの危険はさらに小さかろうと判断して胸甲は部屋に置いておき、その鎧下として使っている胴衣に上着を羽織っただけで出ることにした。町中でまで重い鉄板を着込むのは些か肩が凝る。
 仕度を済ませ階下に降りるとヴェルナアは既に朝食を終えた様で茶をすすっている。
「やっとお目覚めか。遅いぞ、猫」
 我輩は猫ではないと何度言えばこの男は分かるのか。
 たしかに我輩たちミコッテ族は他の民族の者たちと異なり、一見すると獣のものに近い形の耳と尾を持っているが、それを理由に猫呼ばわりとは腹に据えかねる。ルガディン族もその体型と巨躯を理由に鬼(オウガ)と呼ばれては良い気はするまい。過去に何度かそう言って聞かせたが話にならぬ。今では取り合わぬことにしている。
 だがそこに「あンたが猫さんかい」などと聞きなれぬ声で語り掛けられ我輩は目を瞠った。小さいためにそれまで目に入らなかったがヴェルナアの向かいに薄紅色の髪が印象的なララフェル族の女が腰掛けている。
 ララフェルは成人しても体格が子供と変わらぬため外見から歳を測りにくいが、すっと長く通った耳筋に仇っぽい目つき、ちょいと鼻にかかった男好きのする声など、三十路過ぎの女盛りといったところだろうか。冒険者らしくひっつめた後ろ髪を左右に分け、黒い織紐でまとめて垂らし邪魔にならぬようにしている。萌葱色の脚衣に藤黄色の別珍の開襟シャツという軽装を見るにおそらくは格闘士なのであろう。
 ヴェルナア自身による猫呼ばわりはもう諦めたが他の者にまでその紹介の仕方はあるまいと口を開きかけた我輩は、しかし
「あたしゃコモモってんだ。よろしく頼むよ、姐さん」
 そう続けられ再び目を剥くことになった。
 自分よりも年上の相手に姐さんなどと呼ばれるのは尻尾がムズムズして堪らぬ。だが過去の経験から都育ちの女には年齢の話をしてはならぬと決めているのでそれは言わぬことにした。
 気勢を削がれて丸テエブルの二人と向き合える席にがくりと腰を落とすとこちらも名乗り、ヴェルナアに目をやって説明を促す。
「あー、こちらのお嬢さんとは昨日知り合ったんだが、ちょっと困っていることがあるそうでな。俺達でお手伝いしてさしあげることになった」
 その「俺達」に我輩は含まれるのか、含まれるとするならば何ゆえに相談の一つも無いままに「なった」という決定済みの事柄の様に語るのか、などと愚問を投げかけることはしない。この男の図々しさは今に始まったことではない。
「あたしの相棒がギルドリーヴで根の湖まで漁に行ってるんだけれど、どうも忘れ物をしてったみたいでね。あたしゃそれを届けに来たのサ」
 ギルドリイヴとは大都市から冒険者組合(ギルド)に対して発行される任務の召集令状であり、また任務それ自体をも差す言葉となっている。コモモとその相棒はグリダニアに住まう冒険者で、その任務を受けて来たということか。
 だが根の湖まではここからならば約一日の道のりであり、道中の危険も一端の冒険者ならば容易に避け得る程度のものである。届け物くらいで他人の助けは必要あるまい。
「それがねえ。ギルドの方から急に呼び出されてね。今日中にグリダニアに戻らないといけなくなっちまったんだよ。
 どうしたもんかと思ってたところに、こちらの旦那が助け舟を出してくれたって次第さ。少しくらいはお礼も出せるから、どうか頼まれちゃあもらえないかい」
 成程。つまりコモモの代理としてその荷を相棒の所まで届ければよいわけか。正式な依頼で報酬も出るということであれば否も無い。
 だが先ずは朝食である。ちょうど主人が川魚のシチュウとパンを持ってきたところだ。このシチュウは余所では食うことの出来ぬこの宿の名物である。骨を綺麗に抜き去り軽く炒めた川魚の切り身と数種の野菜を香草束と共に煮込んだものだが、その味は正に極上である。野趣豊かだが淡白な川魚の味わいをルビイトマトの酸味が補い、ワイルドオニオンと香草束の爽やかな香りが生臭さを見事に取り去っている。さらに隠し味として秘伝の技を用いているという。干し魚を出汁に加えたものと我輩は睨んでいるが、それを主人に確かめるような無粋な真似をしたことは無い。滋養に富んでいるが全くしつこさの無い、朝食として最良の一皿と言えよう。
 これだけ手の込んだ料理を朝から食わせてくれる宿はそうそうあるものでは無く、これが目当てでこの宿を選ぶ客も多い。もちろん我輩もその一人である。
 最後の一口を腹に収め満足して一息つくと、コモモの姿は既に無い。結局どういう話になったのか。
「まあ、適当に相づち打ってるだけで聞いてねえのは横で見てて分かってたけどよ……」
 つまるところ、我輩は根の湖の外れの釣り小屋にいるトトヤという者に荷を届ければよいらしい。旅糧などの補給も必要なので出発は昼。コモモとはこの場所で再び会い、その時に荷を受け取ることになっている。
 ヴェルナアはコモモについてグリダニアに向かうそうだが、どうせ我輩が話を聞いていなかったのを良いことに仕事をこちらに押し付けて怠けるつもりなのであろう。まあよい。簡単な部類の仕事であるし、この男がいない方が余計なトラブルに巻き込まれる可能性も低くなろうというものである。
 我輩たちは昼に発つことを主人に告げると、旅の支度をするために宿を出た。久しぶりの一人旅である。今回の旅糧は常よりも奮発させることとしよう。

次回→降り注ぐ光-2
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